医師の相続問題
1.医師によくある相続財産の特殊性
医師の相続財産には、医療法人の財産となる出資持分であるとか、MS法人の株式を有する点が、通常の個人事業主・自営業者と異なるといえるでしょう。
特に、出資持分のある医療法人の出資持分を有している場合、その評価が高額となることがあり、相続人に少なくない相続税が課される可能性があることから、事業承継も含めた事前の対策が不可欠です。
2.出資持分のない医療法人への移行について
少なくない相続税の発生を避けるためには、出資持分のない医療法人へ移行することが選択肢の一つとなります。
ただし、出資持分のない医療法人へ移行する場合に留意する必要があることとしては、医療法人が解散するときに残余財産が国や地方公共団体に帰属するということです。
そこで、出資持分のない医療法人への移行を検討するにあたっては、医療法人の後継者(医師)がいることが不可欠といえるでしょう。
すなわち、親族に医師がいなければ、子を医師として育てる、または外部から医師資格を有するものを親族に迎え入れる等により後継者問題を解決する必要があります。
また、後継者側としても、出資持分のない医療法人の承継に魅力を感じないかもしれません。そのため、事前に、医療法人には出資持分がないことを理解してもらうことが肝要です。
3.移行方法について
出資持分のない医療法人への移行方法は種々ありますが、多数の病床を抱える病院を複数有している事業でもない限り、
① 医療法人で贈与税を負担し、出資持分のない医療法人へ移行する
② 認定医療法人制度を利用する
ことで、出資持分のない医療法人へ移行することとなります。
(1) 医療法人で贈与税を負担して出資持分のない医療法人へ移行することについて
出資持分のある医療法人は、出資者の全員がその持分を放棄し、持分の定めがない内容へ定款を変更することで、出資持分のない医療法人へ移行することができます。
ただし、この場合は、出資者の相続税等が不当に減少することとなるため、一定の要件を満たさない限り、医療法人を個人とみなして、医療法人に対して贈与税が課税されます。
法人に納税資金の心配がないような場合、定款を変更して、医療法人で贈与税を納付して、相続発生時の相続税を回避できることとなります。
将来の相続税額よりも、贈与税を支払っておいた方が税負担額が少なく済むというような場合には、この方法によるメリットがあるといえるでしょう。
(2) 認定医療法人制度を活用する
平成26年に創設された事業承継における相続税・贈与税の納税猶予制度が平成20年に改正され、出資持分の定めある医療法人が出資持分なしの医療法人に移行した場合、一定の要件の下、出資持分を放棄したことに対する医療法人に対する贈与税を課税しないという制度となりました。
この制度はさらに、適用期限が令和8年12月31日まで延長され、あわせて、認定を受けてから移行を完了するまでの期限も3年から5年に延期されました。
認定医療法人制度の活用は、以下の8つの要件を満たす必要があります。
① 法人関係者に特別の利益を与えないこと
② 役員に対する報酬が不当に高額とならないよう支給基準を定めていること
③ 株式会社その他営利事業を営む者に対して、寄付その他特別の利益を与える行為をおこなわないこと
④ 遊休財産額が事業に係る費用の額を超えないこと
⑤ 法令違反行為、帳簿の隠蔽等の事実そのほか公益に反する事実がないこと
⑥ 社会保険診療報酬等に係る収入金額が全収入金額の80%を超えること
⑦ 自費患者に対して請求する金額が社会保険診療報酬と同一の基準によること
⑧ 医業収入が医業費用の150%以内であること
4.弁護士にご相談ください
以上のように、医師の相続の場合には、相続財産、後継ぎ問題など、医師に特有の相続問題が生じることになります。
医師に特有の相続問題でお困りでしたら、ぜひ一度、お気軽に当事務所までご相談ください。