個人事業主・自営業者の相続手続における注意点
個人事業・自営業者には、建設、医療、飲食、士業などさまざまな業種がありますが、個人事業主・自営業者の方の場合、通常の相続とは異なり、事業用資産が相続の対象となるほか、契約上の地位の移転の可能性もあり、相続手続きが複雑となってきます。
また、行政手続上においても個人事業主・自営業者特有の手続きが必要となってきます。
1.事業用資産の調査
事業に供していた資産、在庫や既発生の売掛金債権等、買掛金債務等、調査する必要があります。また、賃貸借契約の賃借人の地位は相続により、相続人に承継されます。
以下、留意を要するものを列記します。
(1) 現金や預貯金
屋号名義の預貯金も含めて、亡くなった日の預貯金口座のすべての残高が遺産となります。
(2) 事業用の動産類
工具・機械類などの事業用資産や在庫商品も、営業用の自動車等もすべて遺産になります。
(3) 不動産
事業用に使っていたかどうかに関係なく、すべての被相続人名義の不動産が遺産になります。
なお、店舗を賃借していたような場合は、賃借人たる地位を相続することとなります。
一方、収益物件があったような場合、亡くなった日以降の賃料債権は、相続人が分割債務として法定相続分で承継するので留意が必要です。
(4) 売掛金や買掛金等
売掛金や買掛金、保証金返還請求権等は遺産と評価できるでしょう。
2.個人事業主・自営業者特有の行政手続き
(1) 準確定申告が必要となる
個人事業主・自営業者は、毎年、確定申告を行っています。
個人事業主・自営業者の方がお亡くなりになった場合は、代わりに相続人が確定申告を行う必要があり、これを準確定申告といいます。
- 提出先・時期
提出先:所轄税務署
提出期限:亡くなった日から4か月以内 - 申告者
相続人 - 申告内容
1月1日から死亡した時点までを申告します。
なお、前年の確定申告書を提出する前に死亡した場合は、前年分と本年分とを合わせて確定申告を行う必要があります。
(2) 個人事業の廃業手続きが必要となる。
個人事業・自営業の場合は、事業を開始する際に税務署等に各種の届出をしていることから、個人事業主・自営業者が死亡した場合は、逆に、その個人事業主・自営業者が営んでいた事業を廃業する手続が必要になります。
- 個人事業主・自営業者の死亡届出書
提出先:所轄税務署
提出期限:死亡日以降すみやかに - 個人事業・自営業の開業・廃業等届出書
「個人事業の開業・廃業等届出書」に廃業する内容を記入して、お亡くなりになった個人事業主・自営業者の方が申告していた税務署へ提出します。
提出先:所轄税務署
提出期限:死亡日から1か月以内 - 事業廃止届出書
お亡くなりになった個人事業主・自営業者の方が消費税の課税事業者であった場合には、「事業廃止届出書」を提出する必要があります。
提出先:所轄税務署
提出期限:死亡日以降すみやかに - 所得税の青色申告の取りやめ届出書
お亡くなりになった個人事業主・自営業者の方が所得税の青色申告を行っていた場合には、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出する必要があります。
届出先:所轄税務署
提出期限:死亡の翌年3月15日まで - 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
事業を廃止した個人事業主・自営業者が従業員等を雇用していた場合は、「支払事務所等の開設・移転・廃止の届出(廃止届)」を提出する必要があります。